私には小さい頃から憧れているお風呂があります。
日本人ですから、入浴は大切な時間であり、石鹸やシャンプーもいろいろと集めては楽しんでおりました。特に小さい頃からの憧れは2つありまして、1つは泡のお風呂。そして、もう1つは猫足・優雅な曲線を描く洋風の白いバスタブでした。入浴剤も多種にわたり試しては楽しんでいましたが、やっぱり泡がポコポコ浮いているお風呂は楽しいですし、気持ちも豊かになります。もう1つのバスタブは、かなり実現が困難そうで、おそらくこのバスタブを自分の浴室に入れて泡で満たす夢を自宅で演出するのは死ぬまで無理そうで、少しだけ残念です。
ただ、不思議なのは、CMやテレビでは良く登場するこのバスタブ。雑誌などでも、バスグッズの宣伝の小道具…もとい大道具として使用されているのに、何故一般的に普及していないのでしょう??
実際、私は海外や国内のホテルで利用したことはあるのですが、手足も伸ばせて温めのお湯にまったりと身体を浸してくつろぐのにはぴったりです。半身浴をするのにも膝を曲げず、のびのびと出来ます。リフレッシュしたい時の入浴に限って言えば素晴らしく心地よいのです。
機能面でいえば、改造や改良の得意な日本の技術をもってすれば、排水の処理や二度炊きも外付けで上手に作れそうな気がします。にもかかわらず、何故一般普及しなかったのか。
以前、とあるショールームで質問したところ、
「二度炊き・掃除の手間・足を上げて出たり上がったりするのが高齢者にとってはあまり優しくない」
まとめれば大方このような理由が戻ってきましたが、一番の難点は大きさということでした。
確かに……玄関から台所まで標準的な大きさが西洋と比べて狭い日本の住宅事情を鑑みれば、優雅なバスタブは大きいです。しかも曲線なので無駄なスペースができてしまう。なにごともコンパクトに隙間なく活用する日本の住宅に、これほど贅沢かつ余分な広さを使えるのはきっと余程お風呂に情熱を傾ける人間か、お金持ちさんくらいなのでしょう。
そしてお金持ちさんは、バスタブの脚が猫足になっているよりも、ジャグジーがついていたり、何時でも入れる機能、手入れが楽でしかもサウナ併設などさらに充実した設備、もしくは徹底して日本風に拘ってヒノキ風呂にしたり、眺めを良くしたり、高齢になった時にも安全方向性などへ視点を向けるため、こちらも需要はそれほど伸びているわけでもないようです。
ユニットに組み込むのに難しい……ということもあると思います。
需要がなければ供給もまたないわけですから、普及しないのは分かりますが、それでは何故大道具として、あのバスタブはあちこちで目にするのでしょうか。
やはりそれは、見た目もよく、ファッショナブルで、どこか女性の心をくすぐる魅力を持っているからのような気がするのです。日本人サイズで構わないので、気軽にチョイスできる性能を取りつけて、女性向けに販売したらいいのにと思いつつ、結局、日本には日本基準のバスタブがやはり効率よく選ばれるものであろうか、と少し残念な気分で、雑誌の世界と現実の落差は中々埋まらないものだなぁ、と家のお風呂場を見るたびに、ふ、とため息をついてしまう今日この頃……。我が家のお風呂は現在使用するのに勇気がいる分、憧れが募るのでした。
これと似た疑問ですが、女性の基地(?)ともいえるキッチン。
ある時、こちらは輸入住宅のショールームでレンガ調のタイル張りで何処かカントリー調のキッチンを見て、何て素敵なのだろう、とうっとりしていたら、案内してくださった担当の方に、「一応、見本で付けてありますが、キッチンはやはり使いやすく掃除も手早く出来るシステムキッチンなどの方をお勧めしております」ときっぱり、はっきりいわれてしまったことがあります。
掃除が難儀であろうとは私も思いまたし、自社で販売するための展示をしておきながら指摘できる部分はきちんと見学者に示唆出来るのは信頼感をある意味で高めますが、1つだけ言わせてもらえれば「勧められないキッチンを見てくれだけで展示するのはいかがなものか?」、日本人の使い勝手にあわせたキッチンを最初から組み込んでくれればいいものを。
お風呂もキッチンも、憧れと実用性にはまだまだ大きな溝があるようです。