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ル・コルビジェのソファ。グランコンフォート

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最近、少し高級感や落ちつきを見せようと意図するお店や事務所などで比較的多くみられるのが、黒のコルビジェの「グランクンフォート」。
シンプルで、ある程度の余裕があって尚、包まれるような座り心地は1人暮らしの家に単品であってもサマになりますし、ラウンジなどに並んでいても、1人1人の空間が保たれる構造になっているので、他人に邪魔されない空間造りにぴったりです。
形としても、1人がけが基本的に正方形となっており、幅のある背もたれとアーム部分が均一の高さでコの字型に座面を囲んでいるので、圧迫感もなく、すっきりとしたまとまりのある雰囲気造りにも見栄えが良いのも使い勝手が良いのかな、と思います。
私個人的には、あまり洗練されていない家具が好きなので欲しい! と思うことはほとんどどありませんが、パブリックスペースで利用する分にはとてもいい、と思います。
この手の造りは使用の仕方にそれほど失敗することもないので、余程頓珍漢な使い方をしなければかなり広範囲で活躍できるものだと思っておりましたが、一度だけインテリアとしてマッチしていたとしても、これは如何なものか・・・・? という使用例を1つ。
実は、この椅子は個人クリニックでも良く取り入れられているようで、主に予約制のデンタルクリニックやメンタルクリニック、レディースクリニックなどで見受けられます。
個人病院はいくら予約制と言っても、急患を受け入れるケースもありますので、待ち時間がある程度長くなってしまっても寛いで座っていられる待合室に丁度良いというのも人気の理由の1つでしょう。
但し、問題が1つ。予約患者(もしくは予約客)以外の来院数が未確定の場合には、収容スペースに無理が出来やすいということ。
以前、私が勧められて通院していた個人のクリニックでは、10人~15人前後の収容数を想定してこの椅子を待合室に配置していたと思いますが、基本は予約なものの、内科や各種の予防接種なども受け付けていたため、空いている時と混んでいる時の差がとても大きかったのですね。
特に風邪が流行る時期にはワクチンを打ちに来る患者に既に罹患してふらふらしている患者、花粉症の季節には内科のついでに…とこれまた目を充血させ、鼻をぐすぐずさせている患者、で予約数よりも飛び込みの患者数が多くなり、必然診療時間も多くかかり、予約優先でも発熱している人などが早くから来ていればそちらを先に・・となり、更に付き添いを入れますと気付けば待合室は大混雑。立ったまま待つ人がどんどん増えていくわけです。
座って待っている人は優雅に個人的空間を確保して読書などで時間を潰している反面、発熱してぐずっている子供を抱えた母親や、会社を抜け出して来たらしい顔色の悪いスーツ姿の男性などが眉を寄せてじっと耐えるように壁際に立っている・・・という図は何とも心地悪いものです。
こういう時、なまじ椅子が贅沢でかつ1人分が1.5人分に相当する面積を占領するチェア(ソファ)は詰めるわけにも行かず、病人同士で譲り合いというのも奇妙な気がしてしまいます。
受付の事務員や看護師が気を利かせて空いている処置室などに具合の悪い人々を誘導するなり、ベッドへ寝かせるなりしてくれれば問題も少なくなりますがそれが出来ない人間が働いていると、何故体調が悪いためにわざわざ予約をして来ているのに、さらに別の患者さんを私が心配せねばならぬのか?
これでは、せっかく心地よいソファも針のむしろです。
椅子にしろソファにしろ、置く場所、用途、ついでに管理すべき人間側の心配りの細やかさが揃わないと、せっかくの素晴らしい作品も、ただの場所をとるだけの物として持たれる印象も悪くなってしまいます。
コルビジェさんだって、かような使い方で、悪印象をもたれるのは不本意な事でしょう。
デザイナーが手掛けた椅子やチェアにはそれなりにコンセプトがあり、少し変わった言い方を許していただければ、適材適所があるものです。
結局、私はそのクリニックに通うのはやめましたが、この椅子を見る度にセンスだけではなく、実用を考えた上での家具選びは重要だな、と実感するのでした。

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